観光事業を営まれている方の中で、自社会員組織を持たれている方はどのくらいいますでしょうか?

わざわざ高額な費用を払ってまでやる必要がない、メリットが分からないからやらないと放置されている方も多く存在するはずです。

一方で世界中ではCRMを起点とした自社会員組織の導入が急速に高まっており、顧客管理のメリットを活かした取り組みが益々大事になってきています。

なぜこんな動きが出ているのでしょうか?それは顧客情報が自社の重要な資産と位置付けられているからです。

顧客管理を行うことで得られるメリットにどんなものがあるのか、なぜ重要な資産と見ているのか気になりますよね?

会員組織は関係ないと思われている観光事業者だからこそ知ってもらいたい秘密があるのです。

本記事では「自社会員組織がなぜ重要視されているのか」を3つの理由から詳しく解説。具体的な例や他社会員と比較した場合のポイントを含めて詳しくご紹介しますので是非最後まで記事をご覧ください。

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  • 観光施設・事業を運営されているオーナー、経営者
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<筆者の紹介

  • 観光業界でデジタルマーケティングに携わり10年以上
  • 元大手のOTAでとある責任者として働いていた
  • NutmegというITサービスを運営中
  • 商談や繋がりなどで1,000以上の観光事業者と対話
  • 大手に対してEC業界やITサービスのコンサルティングの実績あり

自社会員組織の必要性はあるのか?

自社会員組織と聞くと、観光事業者のビジネスにおいて「本当に持つ必要があるのか?」と疑問に思う方がいるはずです。

実際に導入している事業者はまだまだ少なく、現時点で取り組むべき重要な課題なのか判断が付かないでしょう。

この点で本当に必要性があるのか?どんな目的で使うべきなのかを明らかにし、世界的なトレンドがどうなっているのか、なぜ自社会員を重要に扱う企業が多いのなど背景を含めて詳しく解説します。

日本の観光業ではまだ多く取り入れられていない大事な考え方が眠っていますので、この点を中心にご覧ください。

リピーター作りに会員組織は欠かせない

そもそも会員組織というのは、何のために使われるのでしょうか?この疑問に単刀直入に答えると「リピーター作りに欠かせない」からです。

リピーターを作るにはいくつかのステップがあり、その中でも2回目以降の「機会を創出するためには絶対欠かせない役割」を果たすのが会員組織です。会員として顧客の連絡先を把握していれば、個別具体的なアプローチが可能になります。

逆に会員組織がなかったらどうでしょうか?リピーターを作るための個別のアプローチができないため、常にマス向けの広告(CMや交通広告など)を行う必要があります。こういったマス広告の費用対効果は見えづらく、特にリピーター作りにおいては不明な点だらけだといえます。

リピーターを作る要因やステップの詳細は以下の記事で詳しくご紹介しています。是非ご覧ください。

また、会員組織があることで誰が実際にリピーターになったか追跡することも可能です。顧客データとしてトラッキングできるからこそ、顧客の顔を覚えているなどの現場の人の感覚に頼らずにリピーターの数を正確に把握することができます。

このように会員組織自体がなければ、効果的なリピーター作りはかなり難しいと言って良いでしょう。そのためには会員組織が必須なのです。

観光施設などは年パスなどによる一部のリピーターの囲い込みはできたとしても、全体的なリピーター作りをする場合には会員組織は欠かせない要素といえます。

自社会員組織である必要性はあるのか?

会員組織がリピーター作りに必須ということは理解頂けたかと思いますが、これは自社だけが専用で使える会員組織である必要はあるのでしょうか?

会員管理をするためにシステムを0から作ると高額な開発費がかかりますし、外部の会員管理システムを使った場合は安くない利用料がかかるでしょう。

そのため外部の販売事業者(例:OTA、オンラインのプラットフォーマー)と協力して、彼らの外部会員組織を使うことで安上がりにするという選択肢を取るケースがあります。

ただこれは本当にこれは良い選択肢と言えるのでしょうか?

身近にあるサービスをご覧ください。規模を問わずに適切なサービスを提供している有名な会社ほど、必ずと言って良いほど自社の会員組織を持っています。

この理由は明確で、自社会員は「資産」と考えられているからです。この資産を持つこととかかる費用とのバランスを比較しても、十分メリットがあるからこういった結論になっています。

自社会員組織が「資産」だと考えられているワケ

なぜ自社の会員組織は資産と考えられているのでしょうか?

自社会員の最大の利点は、自社に関する独自のノウハウが詰まったデータであることです。このデータを使うことで顧客の事を深く知り、サービスの企画や改善に活かすことができます。

これを裏付ける事実として、世界中では「顧客管理」に関する情報を可視化する手段として「CRM」という概念が広まっており、急速に利用が高まっています。

これは日本でも同様で、近年CRMを使った顧客管理が急激に発達してきました。このCRMという概念は、観光庁が発表している観光DXにおいても重要なツールの1つとして位置付けられているほどです。

これだけCRMが普及して広まっているのは、導入にかかるコストよりも効果の方が大きいからといえます。

まとめると顧客情報は自社の資産として扱い適切な活用をすることで、より大きな効果を狙うことができるという考え方が広がっていると言えます。

こういった考え方の中で、顧客情報を利用することで具体的にどんなメリットがあるのかを見ていきましょう。

自社会員組織が重要視されている3つの理由

自社会員組織を持ち、顧客管理をすることで得られる具体的なメリットを知るには、なぜ自社会員組織が重要視されているかの理由の紐解きが必要です。

以下が世界中でCRMが普及し、自社会員組織を持って事業運営することが重要視されている3つの理由です。

<自社会員組織が重要視されている3つの理由>
・理由1:自社で適切に顧客アプローチができる
・理由2:様々な顧客データを一元化して集約できる
・理由3:顧客データを有効活用して事業成長に繋げる

1つずつ詳しく解説していきますので、次から見ていきましょう!

理由1:自社で適切に顧客アプローチができる

重要視されている1つ目の理由は、保持している自社の会員組織の顧客に対して適切なアプローチができることにあります。

この適切なアプローチというのがポイントになっており、顧客管理のメリットを活かすために欠かせない要素といえます。

顧客に対する適切なアプローチとは何なのか、具体的に何に気をつけるべきなのかを丁寧にご紹介したいと思います。

自社の管理下で「顧客接点」を作る必要がある

会員組織はリピーターを作るのに欠かせない要素という点を強調しましたが、具体的にはどのように扱うべきなのでしょうか?

リピーターを作るためには、次のキッカケを作るような「顧客接点」を持つことが重要です。何も接点がなければ忘却曲線としてはすぐに忘れ去られてしまうため、必ず定期的に顧客に対してアプローチして顧客接点を作る必要があります。

もし他社の外部会員を活用している場合はどうなるでしょうか?当たり前ですが、他社の会員組織のためアプローチするには他社の同意や管理が必要になります。

仮にサービスとして外部会員に対してメルマガ配信のようなオプションがあったとしても、そのメール配信オプションを使えるのはあなたの企業だけではありません。他社も同様に使えるため、顧客から見れば自社以外のアプローチを多く受けるということを意味します。

言い換えれば、本来は定期的にアプローチすべき顧客に対して顧客接点が適切に作れず、他社が行う顧客接点に埋もれてしまう可能性が高いのです。

これでは本来の目的である、リピーター作りのための顧客接点ができないため意味がありませんよね?こういった事態を引き起こさないためにも、各社とも自社会員組織に拘っているのです。

「自社以外の理由」で資産を失ってしまう可能性

会員組織は資産という考え方をご紹介しましたが、これを裏付けるのが顧客接点作りの際に必要な「顧客の同意」です。

現在の個人情報保護法のもとでは、顧客接点を作るためには「事前に顧客の同意(通称:オプトイン)を得ている必要性」があります。逆に同意を得ていない or 後から同意を取り消される(通称:オプトアウト)の場合は、それ以上アプローチすることが禁止されているのです。

先ほどの他社会員の例でみると、自社以外にも他社も大量に同じ顧客へアプローチしている可能性が高くなっています。顧客から見ると頻繁に連絡を受けることで煩わしく感じ、オプトアウト(これ以上連絡をしない)という選択をするケースが出てきます。

つまり本来は自社がアプローチしたいのに、他社理由でこれ以上アプローチできないという事態が起きるのです。これでは大事な自社の資産を失っていると言ってもおかしくないでしょう。

このように自社で適切に管理できない場合は、重要な資産がなくなってしまうという最悪の事態が引き起こされてしまうのです。

もし自社だけが独占的にアプローチできるのであれば、他社に邪魔されることなく資産を継続して持つことができます。そのために各社とも自社会員組織に拘っています。

顧客アプローチした「結果の計測」が継続してできる

顧客へ適切にアプローチするためにもう1つお伝えしたいのが、接点作りとして実施した結果の計測が重要だという点です。

顧客接点の数がどのくらい作れたのか、どのくらいの顧客が興味を持ってくれたのか、最終的にどのくらいの顧客がリピーターになったのかを可視化する必要があります。可視化とは具体的に見える数値を指し、感覚的なものではありません。

これが他社会員の場合は、自社が依頼した分の「部分的な結果」しか見ることができません。もしくは最悪の場合は、途中のプロセスは見れずに最後の結果だけ(予約数のみなど)しか見れないことも。

一方で自社会員であれば途中のプロセスを含めた計測が簡単にでき、かつ継続して見ることができるため「施策のPDCAを回すために必要な仕組み」を持つことができます。

このように自社会員を持つことで適切に顧客へアプローチして大事な資産を保有することができ、行った結果を確認して施策に活かしたりなど、本来顧客管理を通じてリピーターを生み出すプロセスを正確に行えるメリットが得られるのです。

理由2:様々な顧客データを一元化して集約できる

顧客管理に向けた適切なアプローチが重要であり、そのための自社会員組織が必須というご紹介をしました。

では保持している「自社会員のデータはどのように活用」していくべきなのでしょうか?

せっかく取得して保持している顧客データがあったとしても、活用できなければ宝も持ち腐れです。

ここでは顧客データを使ったリピーターの特定方法から、他のデータとの連携した場合の有効性、どういったデータを連携して顧客管理をすべきなのかを解説します。

リピーターを特定して「行動を分析」する必要性

ご紹介してきた通り自社の会員組織があれば、本当にリピーターになったかどうか追跡するのは簡単です。一方で、なぜリピーターになったのかか、リピーターになった結果どういう行動をしているかという深掘りが大切になります。

これは継続的にリピーターを作るために、何をすることで効果的にリピーターが作れているのか?という本質的な内容を見つけることに繋がるからです。

具体的には単に予約や購入履歴を見るだけではなく、それ以外にも顧客に紐づく情報を深く見ていく必要があります。例えば2回目の訪問はどういったことをしたのか、満足度がどうだったのかなどが挙げられるでしょう。

この点自社で管理している会員組織なら、顧客に関する情報を一元化することができ、リピーターの詳細な行動を把握することができます。

まさに顧客管理の一番大事な部分になるため、これなしでは継続的なリピーター作りが成り立ちません。

様々な顧客データを統合して管理する

では具体的にどういった顧客データを統合して管理し、リピーターの行動を詳細に分析すべきでしょうか?

ポイントはその顧客の顔と気持ちが解像度高く理解し、それを活かした接客などを行うことです。

例えばホテルのリッツカールトンでは、顧客の行動履歴から細かい好みまで把握して記録することで、2回目以降訪れた場合でも快適なサービスを提供できるようにしているのは有名な話です。

ここから読み取れるのは、顧客の一般的な情報(年齢・性別・居住地域など)に加えて、過去の購買履歴(予約・購入)、そしてそれらに紐づくような定性的なデータ(好みや感想)を連携させることが大事になります。

もし他社の会員で顧客管理をしていれば、こういった他のデータとの連携ができない(データ移転の制約)場合や、そもそも関連したデータにまとめられないという制限が多く出てくるケースが存在します。

自社会員組織を持っているからこそ顧客管理に必要なデータを相互に連携でき、自社ならでは顧客管理をすることで本当の意味でも「資産」として扱えるようになります。

連携すべき他のデータ例と効果

ここからは実際にデータ連携することで、顧客管理のレベルが一層あがる例をご紹介したいと思います。

顧客管理を行う上で、どんな情報が統合して見れると顧客分析が捗るのかにお役立てください。

<例1:施設内の購入履歴や、事業に関連した購買履歴>
・メリット:顧客単価を可視化し、好みを把握できる
・使いたいデータ:POSデータ、物販などの販売データなど

<例2:施設内の行動履歴や、周辺情報のデータ>
・メリット:顧客行動を可視化し、行動の傾向や行動範囲を確認できる
・使いたいデータ:マップデータ、クーポンデータ、スタンプラリーなど

<例3:顧客満足度に関する情報>
・メリット:満足度を具体的に可視化し、良かった点や改善点を洗い出せる
・使いたいデータ:アンケート結果、口コミなど

このようにより多くのデータを連携し、情報が貯まれば溜まるほどより深い洞察を得ることができます。

既存のリピーターの傾向を分析して把握し、サービスの企画や改善に繋げることで確かな効果を実感できるメリットが得られるでしょう。

理由3:顧客データを有効活用して事業成長に繋げる

顧客データが充実した後は、分析だけで終わっては意味がありません。その洞察やデータそのものを生かして「事業成長」につながるような施策を打つことが重要になります。

施策を打つ点でも自社会員組織だからこそ柔軟に施策ができるメリットがあり、実際にどんなことができるのかといった例や、施設の運営や営業につながる具体的な連動方法を解説します。

統合された顧客データを元にした施策が打てる

顧客に関するデータが統合されたら、これを活用してより具体的な施策に繋げましょう。

リピーターを作りに向けた顧客接点作りでは、顧客の特性に応じてそれぞれに適切なコンテンツを届けることで効果を最大化する取り組みが大切です。

よくあるようなメールマガジンを送るの例にとって説明しましょう。

ステップとしては顧客情報の中から一定の傾向を持った顧客のグループを「対象のセグメント」として作り、そのターゲットに向けた最適なコンテンツを作ることです。

【メルマガへの顧客データ活用例】
・セグメント:同じ県及び隣接した県に在住、過去3ヶ月以内に参加
・コンテンツ案:クリスマスに開催する特別なイベントへの招待
・狙い:リピーターになりやすい顧客層を数多く取り込む

こういった顧客データを使ったセグメント作りやコンテンツ配信は、他にも様々な施策へ活用が可能です。マーケティングオートメーションと絡めれば、煩雑な作業や設定なしに、自動化したプロセスで効率的なアプローチも可能に。

より細かい内容や施策方法は別の記事で別途ご紹介予定です。

施設や事業の企画・運営に活かせる

先ほどは身近なデジタル施策の話をしましたが、次は提供する観光サービスの企画や改善に繋げる点をご紹介します。

リピーターを分析していくことで、最終的には自社に対して熱量が高い「ロイヤルカスタマー」を特定することが可能です。このロイヤルカスタマーの行動にはヒントがたくさん詰まっており、リピーターを作るプロセスにおいて大いに役立てられることができます。

どのように役立てるかというと、ロイヤルカスタマーと一般客の行動の違いを分析することによって「何に喜んでいるのか・何をすることで満足度が高まる」のかを理解することができます。

このような情報を元に施設・事業をどんなサービスにすべきなのかの企画出しや、具体的に運営する中で改善する方法を見つけることができます。

また、それぞれのターゲット向けに向けた施策を分けて実施することも重要です。一般客にはロイヤルカスタマーが頻繁にやっている体験をしてもらいファンになってもらう、ロイヤルカスタマーは新しく提供を始めた体験をしてもらって満足度を調査をするが考えられます。

統合された顧客データがあることで、より具体的なサービス提供が可能になるでしょう。

より具体的な例は別の記事でご紹介予定です。

営業施策と連動して売上・利益アップに直接貢献

サービス提供の企画や改善と並行して取り組みが必要⁨⁩なのが、具体的に売上や利益アップに直接貢献できるような施策の展開です。

いくつか例を上げながら、顧客データを使った具体的にできる取り組みをご紹介します。

<例1:観光施設が行う年パスの企画へ活用>
・リピーターが年に何回来園しているか確認し、リピート訪問の閾値を確認
・リピート訪問回数がお得になるような価格設定を検討
・ロイヤルカスタマー向けとライトカスタマー向けに複数の年パス商品を企画

<例2:広告費や販促費の最適化、無駄なコスト削減>
・イベントへの参加や満足度を分析し、販促内容が効果的なセグメントを特定
・当該セグメントに対してピンポイントの広告を配信し、効果の薄い層を除外
・配信した広告のチャネルを分析し、無駄なコスト削減や効果的な媒体などに集中する

<例3:ロイヤリティプログタムの企画及び導入>
・年間のリピート訪問の限界点や、中央値を把握する
・中央値を上げるためのロイヤリティプログラムの内容を検討
・閾値を超えるような特典を付与することで、より多くのリピート訪問をしてもらう

こういった売上・利益の向上に対して自社会員ならではのユニークなデータを使い、様々な施策のPDCAを回すことで持続的な事業成長ができるメリットを最大限に享受することができます。

自社会員だからこそできる統合的された顧客データを最大限活用し、リピーター作りを始めとして自社ならではの重要な資産を使った取り組みを始めましょう。

まとめ

自社組織が重要視されている3つの理由を解説してきました。世界中でCRMの導入が加速し、自社会員が資産として認識されて活用される理由がご理解いただけたと思います。

それだけ自社会員組織にはメリットが大きく、多少のコストがかかったとしても導入する必然性が起きているのです。

今後は自社会員組織を基礎とした顧客管理を丁寧に実施し、継続的な事業成長ができる企業とそうでない企業の差は開く一方と言えるでしょう。

これに気づいた先進的な観光事業者は、外部の会員組織を使うことの危険性や重要な資産が貯まらない危機感から「自社専用の会員組織」を作ることに躍起になっています。

これ以上の機会損失を産まないためにも、顧客管理のメリットを最大限享受するためにも、自社会員組織の導入を検討されてみてはいかがでしょうか?

当ブログではゲストエンゲージメントを高めるための秘訣や、具体的にどういった施策でエンゲージメントを高めるのかを詳しく解説していく予定です。

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