観光施設を運営されている事業者の方々は、年間パスポート(以下「年パス」という。)があまり売れないと悩みを抱える方も多いはずです。

色々と対策はしているのに、全然販売枚数が伸びない。ロイヤルカスタマー施策と取り組んでいるのになかなか効果が出ないなと悩みがつきません。

これは年パスを販売するアプローチ自体に誤りがあることが多く、適切に販売を行なっている米国やヨーロッパでは、実は年パスを倍以上の比率(日本比較)で売っている観光施設が多く存在します。

こういった施設はどのようにして年パスを倍以上売っているのでしょうか?背景には具体的な目標達成に向けた設計方法や考え方・ポイントがあるのです。

本記事では「年パスを倍以上売るために」どうすれば良いのか、大事な考え方や押さえるべきポイントを含めて詳しく解説します。

【この記事がおすすめの方】

  • 観光施設・事業を運営されているオーナー、経営者
  • 観光施設・事業に携わっている営業職の方々
  • 観光施設・事業に携わっているマーケティング職の方々

是非最後まで記事をご覧ください。

<筆者の紹介

  • 観光業界でデジタルマーケティングに携わり10年以上
  • 元大手のOTAでとある責任者として働いていた
  • NutmegというITサービスを運営中
  • 商談や繋がりなどで1,000以上の観光事業者と対話
  • 大手に対してEC業界やITサービスのコンサルティングの実績あり

知っている?一般的な年パスの利用率

年パスが200%(倍以上)〜売れるのか?と疑問に思っている方が多いと思いますが、結論から言えば十分に可能です。

特に日本に関しては年パス販売の余地が大きくあるため、倍以上売ることは現実的なターゲットとして考えられるのです。

それを裏付けるようなデータや、一般的なロイヤルカスタマーの比率、そして日本の観光施設の年パス販売余地を順番に解説します。

観光施設別のデータ(グローバル・APAC)

一般的にどのくらいの比率で年パスが使われているのか、まずは実績を裏付けるデータを見てみましょう。

グローバルを対象としたIAAPA*1の調査レポートでは、通常の入園券に対して「平均で17%」年パスが販売されているデータが分かっています。

※1:International Association of Amusement Parks and Attractionsの略。世界中の観光施設が所属する機関で、様々なレポートを発行

IAAPA AMUSEMENT AND THEME PARKS BENCHMARK REPORT FY2019より

もちろん業種によって異なりますが、想像以上に高いと思った方もいらっしゃるはずです。

更に年パスのメインとなる「テーマパーク」における地域別のデータを見ていくと、日本が所属するAPAC(6%)では北米(12%)やヨーロッパ(13%)に比べても年パスの販売比率が半分以下ということが分かります。

IAAPA AMUSEMENT AND THEME PARKS BENCHMARK REPORT FY2019より

つまり日本が北米・ヨーロッパ並みに年パスをしっかりと販売できれば、倍以上売ることができる素養が十分あると言えるのです。

一般的なロイヤルカスタマーの比率は20%

上記の年パスの販売データは、あくまで平均値です。積極的に年パスを販売している施設とそうでない施設がミックスされているため、こういった事情を加味すればまだまだ年パスの販売は可能といえます。

その根拠は、一般的には優良顧客と言われている「ロイヤルカスタマー」が全体の顧客のうちの20%を占めるというデータです。

これは「パレートの法則」を元にした解釈をベースにしており、どの企業・サービスもロイヤルカスタマーは全体の20%はいるという裏付けも取れています。※具体的な例はここでは割愛します。

観光施設は実はまだまだ少ないと言える

ロイヤルカスタマーの比率20%を観光施設に当てはめた場合、年パスという優良顧客向けの商品としては、まだまだその域に達していない状況が多いように思えます。

平均としての年パスの販売比率が17%なのはもちろん、テーマパークという業種では11%しか年パスを使っておらず、ロイヤルカスタマーの囲い込みが不十分だと言えるのではないでしょうか。

このロイヤルカスタマーの囲い込みを適切にすることで、業種によっては年パスを倍以上売ることができるといえます。

結論:年パスを倍以上売ることは十分に可能

ご紹介してきた通り、データや他の業種から見たロイヤルカスタマー向けの施策として考えれば、日本では低い年パスの販売比率を大幅に上げることが可能です。

米国・ヨーロッパ並みの施策ができれば倍は達成できますし、ロイヤルカスタマー施策が上手くいけば全体の20%が年パス利用者という夢のような世界にも達成することが可能です。

従来比200%以上売るために必要な道筋(山の登り方)

ではどのようにして年パスを従来の倍以上売ることができるのでしょうか?とても大きな目標になるため、何をして良いか分からない方も多いはずです。

忘れてはいけないのは日本が置かれているマクロとしての状況や、具体的に倍以上得るために必要な道筋」をつけることです。

こういった道筋なしにどうやったら達成できるのか(Howとしての施策)を考えると失敗する可能性が大きく上がります。

いわば山の頂上を目指すためには、「事前に登るルートを決めて効果的・効率よくアプローチ」するのが大事なのと同じといえます。

どういった道筋を考えるべきなのか、順番に見ていきましょう。

従来の延長線上で考えては達成は難しい

年パスを販売する上で絶対に忘れてはいけないのは、ターゲットとすべき顧客の数や性質です。

日本では少子高齢化が深刻なほど進んでおり、今後人口増加によって観光施設へ新規で来る顧客が持続的に増えることありません

一方で訪日外国人としてのインバウンドは増えていますが、性質的に年パスを使ってリピート訪問してくれる観光客がどれだけいるでしょうか?

よっぽどの日本好きで頻度高く来る人ではない限り、インバウンドをターゲットにするのは難しいでしょう。

全体の来場者数を伸ばすことで年パスの利用数を増やすというのは、かなり無理があるということが前提として存在しているのです。

既存の延長線上(来場者数を伸ばすという考え方)で年パス販売を倍以上するための達成方法を考えるのはおすすめできないのです。

KPIを設計して目標達成に向けた指標に変換する

ではどのように年パスの利用者を倍以上にするかというと、達成に向けたKPI設計をした上で具体的なターゲットや手法を考える必要があります。

様々な考え方はありますが、シンプルに追えるおすすめのKPIはこちらです。

【年パス販売のKPI】
年パス利用者数 = 入場者数(母集団) ✖️ 年パス利用率(ロイヤルカスタマー比率)

ポイントは全体の中でどのくらいが年パスを利用しているかという利用率と、年パスを使ってくれる可能性のある母集団がどうなっているかという点です。

それぞれの具体的な部分については、大事な考え方や売るためのポイントで詳細に解説します。

具体的な施策はマーケティングの4Pで考えるべき

最後にKPIを達成するための施策に関しては、単に1つの観点から物事を見て対応するのではなく、マーケティングの総合的な観点から捉えて考えることがおすすめです。

マーケティングの4Pと呼ばれる確立された手法があり、下記の記事で具体的な例を用いて解説をしています。施策の詳細が気になる方は是非こちらの記事もご覧ください。

大事な考え方(登る際に考慮する事)

前提条件や達成に向けた道筋が見えたところで本題に入りましょう。

ここでは具体的な施策を推進するにあたり、KPIと連動した大事な考え方をご紹介します。先ほどの考え方が山に登る際のルートだとしたら、次は山に登る際に考慮することです。

この考慮がなければ走り出すための必要な準備ができませんので、実はとても大事なパートになります。単に施策をやるだけではなく、どのように認知を取り・どのように買ってもらうかを要素分解してお伝えします。

誰の顧客認知を取るか(オーディエンス指定)

年パスを売るために絶対に必要になる要因は、「顧客の認知」をとるということです。KPIでいうところの入場者数(母集団)に関連します。

認知をとる際に考慮したいのは、誰の認知をとるかという「オーディエンス」の概念です。このオーディエンスが定まらなければ、どんなに認知を取ったとしても効果が出なくなります。

例えば初めて観光施設に来園する「新規顧客」に事前に認知を取ったとしても、良さも分からないのに購買に向けての検討をしてもらえるでしょうか?

つまり、年パスとして認知を取りたいのは、既に観光施設を体験して良さを感じている「既存顧客」をオーディエンスとして定めることが効果的です。

顧客のメリットは何か(魅力的に感じてもらう)

対象のオーディエンス(既存顧客)に認知を取れたとして、続いて必要なのが魅力的に感じてもらうこと = 顧客のメリットは何かという部分です。

単に年パスはこちら!というような内容を見せても、だから何?となる方が多くなってしまいます。一般の入園券と比較すると値段は高いですし、興味すら持ってもらえないこともあるでしょう。

しっかりと顧客の興味を惹きつけて検討してもらうためには、以下の事項を考慮する必要があります。

【年パスの顧客メリットを伝える方法】
・具体的にどんな使い方をするとメリットがあるのか(金額感、費用対効果)
・どういうシチュエーションだと魅力的に映るのか(来やすい、土日に遊ぶ選択肢など)
・実際にメリットを感じた声が使って説得力を増す(レビューなど)

より具体的なメリットを伝える方法は、別の記事で解説予定です。気になる方はメルマガ登録をしてお待ちください。

顧客の購買行動をどのように促進するか(実際に動いてもらう)

年パスの魅力が適切に伝わったとしたら、次は顧客の購買行動をどのように引き起こすかです。魅力的ならすぐに買ってくれるのでは?と思うかもしれませんが、最終的に購買してもらうためにはハードルが存在します。

このハードルを具体化したのが、購買行動におけるステップです。以下のように3つに分けられており、魅力的に感じただけでは残るのステップをクリアできないのです。

【購買行動のステップ】
・ステップ1:欲しいと思ってもらうための興味刺激
・ステップ2:欲しいと思った瞬間に買える
・ステップ3:購買するときに簡単に買え、手間がかからないこと

購買を完了させるためにも、ステップ1だけでは終わらずにステップ2・3に進んで途中で離脱しないような設計が必要になります。

この点の離脱防止方法は、別の記事で解説予定です。気になる方はメルマガ登録をしてお待ちください。

考え方の整理・まとめ

ご紹介してきた通り、顧客の認知を得て・内容を魅力的に捉えてもらい・そして購買行動をしてもらうという「一連の流れが大事」なのがご理解頂けたと思います。

これで山へ登るルート考慮すべき事項は把握されたと思いますので、具体的に売るためのポイントへ進みましょう!

効果的に売るための3つのポイント

いよいよ実際に売るためのポイントに入りましょう。施策を行う上で必ず抑えたい点を中心に解説していきます。

今後施策を行う上で常に確認する点となりますので、必ず覚えるようにしましょう。ここで紹介するポイントが抜けてしまうと、的外れな施策や検証ができない施策になってしまいます。

年パスを売るというアクションを継続的に行い、販売サイクルを回してどんどん販売を増やすためにも以下の3つを抑えてください

ポイント1:既存顧客からの転換率で考える

年パスの販売を増やすためのKPIとして「入場者数 x 購買率」を設定したいと思いますが、ここの購買率を単に2倍すれば良いという問題ではありません。

実際には「既存顧客」を対象に年パスの転換率を計算する必要があるため、目標すべき年パスの販売数から逆算した転換率(CVR)の試算が必要になります。

【転換率(CVR)の試算例】
・入場者数:10万人、内8万人が既存顧客で2万人が新規顧客
・年パス利用者:5,000人(全体の5%)
・必要な転換率:10,000人(倍の販売)/ 80,000人(既存顧客)= 12.5%

つまり「既存顧客の8人に1人」は年パスを買ってもらう必要があることが分かり、この転換率を達成するために各施策を打っていくことになります。

ポイント2:リーチできる既存顧客の母集団を確保する

先ほどは既存顧客の転換率を出したと思いますが、実際に年パスの購買をしてもらうためにリーチできる母数は本当にすべての既存顧客を対象にして良いのでしょうか?

8万人いる既存顧客のうちに、全員が年パスを認知して購買の検討をしてくれるわけではないのです。

そのため実際に年パスの認知をしてもらうための母集団の内容を定義し、かつ一定の母集団を確保するための動きも必要になるのです。

例えば8万人のうち、半分の4万人は事前のオンラインチケット購入で連絡先(メールアドレスなど)を入手していたとします。この4万人に年パスを認知してもらう方法は色々と考えられますが、逆に連絡先がない残りの4万人はどこの誰だか分からないため、認知してもらうための方法はかなり限られるでしょう。(現地の看板やポスター、パンフレットなどを配るなどの費用対効果が見えづらい施策になってしまいます)

もしリーチできる4万人に対して年パス1万人の販売が必要となると、転換率が25%と非常に高いものになってしまいますよね。これでは到底目標が到達できないでしょう。

可能な限り母集団の数を大きくするほうが転換率が低くての目標が達成できるため、年パスの認知をしてもらうための母集団を拡大する方法を考えましょう。

【年パス認知に向けた母集団を増やす方法】
・外販(OTAや旅行会社)の顧客も対象にする
・デジタルマップ等を利用して現地チケット購入者へのアプローチする
・団体などで入場した1人1人もターゲットにする

実際に年パスを販売するための母集団を増やす方法は別の記事でご紹介したいと思います。

ポイント3:母集団となる既存顧客へのアプローチ方法を考える

転換率を上げるための母集団が確保できたら、実際に転換させるためのアプローチ方法を考えましょう。

ポイントは3つあり、認知をしてもらうための接触回数と認知してもらうためのベストなタイミング、そして最後に2つの組み合わせです。

<ポイント1:年パスを認知してもらうための顧客接触回数>
・1度きりの顧客接触では認知してもらえる可能性は低い
・できれば複数回接触した上で認知をしてもられる角度を上げるべき
・一方で顧客接触回数が多すぎると逆効果になる場合も多く、回数が多ければ多いほど良いというわけではない

<ポイント2:ベストなタイミングで接触する>
・楽しんでいる最中などに顧客接触しても興味を示してもらえない
・一方で全く関係ない文脈で顧客接触しても関心をもってもらえない
・顧客が最も気になる or 興味を示すタイミングで効果的にアプローチする方法を考える

<ポイント3:回数 x タイミングを最適化する>
・当初の設計上はベストなタイミングを選択するところから始める
・ベストなタイミングの中で集中して顧客接触を多くできる機会を探す
・複数のタイミングを掛け合わせることで認知を取るジャーニー(流れ)を作る

例えば当日来場して楽しんでおり、ランチ休憩を取っていて比較的時間に余裕がある顧客へ接触。加えて夕方の閉園間際で楽しい思い出をした入口ゲート付近の顧客へアプローチするなど、タイミングと回数が最適化するジャーニーを考えてみましょう。

具体的にどのようにやるのか、どんな点に気をつけるべきなのかは別の記事でご紹介予定です。楽しみにお待ちいただければ幸いです。
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解説した3つのポイントをもとに、マーケティングの4Pを考慮した施策を企画して実行していけば、確実に年パス販売が伸びることは間違いありません。

逆に施策だけやったとしても年パスの販売が大きく変わることは少ないでしょう。是非ご紹介した内容をもとに、総合的に年パスの販売に取り組むことをおすすめします。

まとめ

米国・ヨーロッパと比較しても、日本の観光施設はより多くの年パスを販売できる余地は十分にあり、適切なアプローチをすることで現在の倍以上年パスを販売することは十分に可能です。またロイヤルカスタマー施策と考えれば、20%まで高めることも考えられるでしょう。

そのためにも達成に向けたKPIの設計や、対象となる母集団の定義や拡大、そして認知をとって興味を惹くための一連の流れに取り組むことをおすすめしています。

単に施策を行うのではなく、具体的な数値に落とし込み、目標となる数値を達成するための施策を検討してみてはいかがでしょうか?

当ブログではゲストエンゲージメントを高めるための秘訣や、具体的にどういった施策でエンゲージメントを高めるのかを詳しく解説していく予定です。

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